生徒と繋いだ「平和」への想い

桜丘学園「平和の塔」建立30年記念事業

ピースリレー900~星野村から桜丘学園へ30年の歩み~

生徒と繋いだ「平和」への想い

ピースリレー900責任者 小林寿来

『この火から 遠ざかるまい 私たちの意志を 未来へ放つ』

1988年、ニューヨークで行われた第3回国連軍縮特別総会へ、星野村の「原爆の火」がリレーで運ばれました。その際、豊橋にやってきた「原爆の火」は、ランプに保存されました(鳥山氏保存)。

同年、本学園の学園祭で、クラス企画の展示と共に、この「原爆の火」が紹介され、この学園祭がきっかけとなり、「平和の塔」建立へとつながりました。建設するにあたり「100円玉で平和を」と言うスローガンを掲げて建設資金の募金を行い、全校生徒、教師、保護者、そして多くの市民からの協力によよって「平和の塔」建立に至りました。

1989年10月15日、本学園で「平和の塔」除幕式・点灯式を行い、星野村の「原爆の火」を正式に分火して頂きました。この「平和の塔」には、建立当時の平和宣言文の一節である「この火から遠ざかるまい 私たちの意志を未来へ放つ」という言葉が刻まれています。現在もこの言葉は本学園の平和学習の礎となり、30年が経過した今も、私たちの「平和への意志」として燃え続けています。

 

「ピースリレー900」が、星野村と桜丘学園を結ぶ

30年間、桜丘学園の平和のシンボルとして灯し続けてきた、広島原爆の残り火。長い間、私たちの学園が歩みを止めることなく、平和の願いを訴え続けることができたのは、この火のおかげだったのかもしれません。故山本達雄さんから受け継いだ意志(平和の火)は、新しい時代になっても力強く、そして優しく、これから私たちが歩んでいく未来へ、平和の道標になってくれると信じています。

今回、「平和の塔」建立30年記念事業として、本学園にある「原爆の火」の原点である福岡県八女市星野村から愛知県豊橋市桜丘高等学校までの道のり(約900㎞)をリレー形式で走破しようという企画を立ち上げました。それが、「ピースリレー900」です。総勢18名の生徒たちと教師・関係者の約10名が、約2週間かけて核兵器廃絶や世界平和を訴えながら、自転車でピースリレーを行いました。「平和の塔」建立30年を機に星野村と桜丘学園のつながりを再確認する企画になりました。

 

『100円玉でピースリレーの応援を!!』

2019年度1学期終業式に高校全校生徒に投げかけた「100円玉でピースリレーの応援を!!」のスローガン。企画運営の応援資金として生徒たちに100円玉募金を呼びかけたところ、総額、約9万円の金額が集まりました。その中で生徒たちとのやり取りを1つ紹介します。

「夏休み中に僕はホームステイに出かけてしまうので、募金当日は学校に居ません。だから今、100円を持ってきました!思いを込めるからちょっと待って下さい!」これは、終業式終了後の職員室の光景です。ゆっくりと開かれた手の中には、思いが込められた100円玉がありました。純粋さと優しさに包まれた、なんとも美しい100円玉でした。

このように一人一人の「平和への意志」が込められた100円玉は、建立当初に呼びかけた「100円玉で平和を」の合言葉で集めた100円玉同様、とても価値のある100円玉になったはずです。

(1992年、建立3年を記念して、本学園「平和の塔」をモチーフに作成された合唱構成「遠ざかるまい この火から」の中から抜粋した歌詞です。この合唱曲は、10月14(祝・月)に行われた「平和の塔」建立30年記念式典「夕暮れ平和コンサート」で披露されました。数十年ぶりに作曲家の藤村記一郎先生により指揮を振って頂きました)

 

時代は変わっても「ALL桜丘」で挑む教育活動

企画を実施するに当たり、金額的な問題、健康上や安全上の問題など問題は山積みでした。大きく圧し掛かってくる責任によって、私自身が精神的に不安定になることもありました。そんな時に、後押ししてくれたのは、保護者のみなさん応援です。本校の教育活動に対するご理解とご協力が大きな追い風となり、企画の運営・成功へとつながっていったと感じています。

父母の会理事会では、訴えかける言葉に耳を傾け、涙浮かべてくださる方がいたり、「私は炊き出し手伝うからね」と会終了後に駆け寄って声をかけてくれたりしました。「私も企画に参加するから先生も頑張ってよ」と心強い応援を頂いたこともありました。父母懇一泊研修では、支援金募金を行い、金銭的な支援もして頂きました。本来、教育活動は、生徒=教師の関係性の中で行われるものです。しかし、本学園では、生徒=教師=保護者が手を取り合って教育活動を行っています。建立当時も多くの保護者の皆さんの協力があったと聞いています。時代は変わっても、桜丘学園と保護者との関係は不変です。一番身近で、一番心強い支援者である方たちとの関りを今回も企画を通じて確認できたような気がします。 最後まで私たちの教育活動を信じて応援して頂き、本当にありがとうございました。

D区間では、台風19号の影響の為、予定が変更されてしまい多くの方にはご迷惑をおかけしました。この場を借りてお詫び致します。

 

 

 

若い世代が未来に繋ぐ、高校生の力は無限大

このピースリレー900の告知をした所、参加希望を申し出た生徒は約20名近くいました。様々な都合で実際に走ることになったのは、18名の生徒です。このメンバーと一緒に、福岡県八女市から愛知県豊橋市まである900キロの道のりを4区間に分け、A~C区間は4名、D区間は6名の生徒たちが核兵器廃絶と世界平和を訴えて、「平和のたすき」を繋ぎました。

ピースリレーの1日の走行内容は、1日平均80キロ、生徒2人、教師1人が1組となり、組を変えながら次の地点までたすきをつなぎます。それを何度も繰り返して、宿泊地点(1日のゴール)を目指します。多くの山々を乗り越え、夏の暑さに耐えて無事に豊橋までたどり着くことができました。

A区間、C区間の生徒たちの様子を例に挙げ、頑張りと成長の記録として特筆して紹介したいと思います。全体を通しての様子は、学校HP(予定)や現在作成中の記念冊子(案)をご覧ください。

【A区間生徒の活躍】

A区間は、野口、平田の自転車部コンビが活躍し、一緒に走っていて担当者として心強く頼りになる存在でした。事前の自転車メンテナンスも自分たちで行い、準備にも力を入れていました。走行中の野口のコース取りは、自転車素人の私たちが安心して付いていけました。おかげで気持ちの良いサイクリングデビューをすることができました。メンテナンスに関してはすべて平田が行い、途中パンクするハプニングもありましたが、動じることなく短時間で修理してしまうほどの腕前を持っています。

心配された道上、谷口の二人は自転車部の2人に負けない走りを見せてくれました。事前に本宮山を自転車で登って準備をしてきた道上。自転車初心者ではあるが、弱音を吐かず淡々と自転車をこぐ谷口の姿は立派でした。その姿を見ていると、大人である私たちの励みにもなりました。

広島県宮島行フェリー乗り場で休憩した際には、「私も被爆者です。頑張って下さい」と声をかけてくれる方がいました。生徒たちは、このような出会いや声掛けを通じて平和について真剣に考えるようになり、日を重ねるごとに、背負っているものの大きさを実感するようになりました。

「自分たちのような若い人が戦争について学び、人に伝え、繋ぐことが大切だと思います。平和とは何かを考えた時に、自分は、毎日の日常が当たり前にあることが一番の平和だと思います。平和とは何か、今後自分たちが何をすればよいのか、わかりました。」今回のピースリレー中、多くを語らなかった谷口の感想文に書かれていた言葉です。

【C区間生徒の活躍】

C区間は、2年生のみのチーム編成となりました。これまで3年生が、各区間を走り繋いできた「平和のたすき」を2年生が受け継ぐ形になります。2年生は、総合的な学習や修学旅行を通じて、様々な平和学習に取り組んできました。これらの学習を通じて、平和への関心が高まっている時期に、このような企画ができたこと(行動に移せたこと)は、彼らにとって大きな経験となり自信につながる活動に

なったはずです。京都到着式では、NPO法人アースキャラバンの職員の方に出迎えて頂き、これまで走ってきた感想を求められました。4人の生徒たちは次のように発言しています。

回を重ねるごとに、各地で求められるインタビューや感想の言葉の中に、生徒たちの自信を感じるようになりました。ピースリレー後半になると「平和とは何か」という、大人でも言葉に詰まって戸惑ってしまう質問にも生徒たちは「自分たちの意志」を込めてしっかり語れるようになりました。

【この言葉の中に高校生の可能性を感じた】

ピースリレー900出発式で実行委員長の戸澤は、新聞の取材に次のようなコメントをしています。「修学旅行で戦争体験者の話を聞き、平和への思いを強くした。“戦争はいったん始めたら止められない、だから始まる前に止めないと”という言葉が心に残った。この言葉を胸に刻んで走りたい。」

この言葉を聞いて、「若い世代が未来に繋ぐ」という高校生の可能性を感じました。この言葉を信じて「絶対にこの企画を成功させなくてはいけない」、教師として決意をした瞬間でした。

 

生徒たちと共に繋いだ、「平和」への決意

2019年度、夏。一生の思い出になる体験をさせてもらった事に感謝したいと思います。そして、怪我なく、病気なくここまで歩みを進めることができた事、互いに支えあいながら、生徒、教師、父母が一丸となり企画を進めることができた事を報告したいと思います。

この夏休み中、熱中症や交通事故などのニュースを耳にするたびに気持ちが落ち着きませんでした。毎日がナーバスな気持ちになり辛い日々が続きました。「安全第一」、「健康第一」。常に頭の中では、この言葉が飛び交っていました。

そんな時に支えてくれたのは、生徒たちの笑顔と勇気、そして先生方の安心感と信頼感でした。参加した生徒たちは、いつも笑っていました。勇気をもって一歩踏み出し、企画に参加してくれました。一緒に走った先生たちは、どんな時も僕を信じてくれました。そして、一緒に走る生徒たちの安全を安心して任せることができました。ピースリレーはチーム戦です。このような壮大な企画は、絶対に1人でできません。1人でできないことも、みんなでやれば可能性が広がります。互いに支えあったから、ここまで歩みを進めることができたのだと思います。

「平和とは何か、自転車で走っている時に考えて下さい。」ピースリレー900壮行会の中で生徒たちに投げかけた満田康一理事長からの課題でした。「生徒たちは何を考え、自転車を走らせたのでしょうか?」是非とも、この夏、大きな行事をやり遂げた彼らの言葉に耳を傾けてほしいと思います。1まわりも2まわりも大きく成長した彼らから発信される平和に対するメッセージは、自信に溢れる説得力のある言葉になっているはずです。

 

■願えば叶うのではない、「行動」することで何かが変わる

学園の「平和の塔」が存在する限り、桜丘学園から平和を発信していきます。

広島原爆の残り火を持ち帰った山本達雄さんの意志を後世に伝えていきます。

「憎しみの火」から「平和の火」へ、原爆の残り火の本当の意味を伝えていきます。

私たちは、以上の想いを誓いの言葉として、これからも生徒たちと共に行動し、「当たり前のことが当たり前に言える」環境をつくっていきたいと考えています。今回の企画によって、「平和への想い」は「平和への決意」に変わりました。全世界から核兵器がなくなり、全世界の恒久平和を願っています。そのために、私は小さな「行動」を起こし続けます。(2019.11.22)

平和の塔

A区間星野村平和の塔

B区間原爆ドーム前

私のベストショット

平和の想いを背負う

C区間到着式

D区間到着式にて

夕暮れコンサート

ピースリレー参加者全員集合